MONTHLY FEATURES 今月の特集

あなたの知らない八女茶の世界

あなたの知らない八女茶の世界

全国的な知名度を誇る我らが八女茶、あなたは本当に知っているつもり?
今回編集部では八女茶とは一体何者なのか、なぜ人気があるのか、徹底調査を敢行した。

1423年、八女茶始まる?

八女茶発祥の地とされる霊厳寺

八女茶の始まりは約600年前。室町幕府3代・足利義満によって日明貿易が開始されたことをきっかけに、学僧・栄林周瑞禅師は明に渡ったと考えられる。帰国すると筑後国鹿子尾村(現在の八女市黒木町笠原)に霊厳寺を建立。持ち帰った茶の実を庄屋の松尾太郎五郎久家に分け与え、製茶の技法を伝授した。
では、福岡県茶業振興推進協議会をはじめ各団体が提唱する「1423年」とは何か。実はこれ、松尾太郎五郎久家の位牌に記された年なのだ。
「はっきりわかっているのはこの年くらい。八女茶の古い歴史はちゃんと記録されていないんですよ。だから、その後の経緯は諸説ありなんです」と話すのは、福岡県茶生産組合連合会の事務局長・仁田原寿一氏。なお、松尾家では34代目にあたる末裔が今もお茶を作り続けている。記録に残らない八女茶の歴史を彼らは目撃し続けてきたのだろう。

八女に茶園が広がった幕末

この八女で松尾氏を中心にお茶の栽培が広まったのだろうが、仁田原氏の言う通り具体的なことはよくわからず、時代はとんで幕末へ。外国人貿易商(一説によると、グラバーと言われる)により、九州のお茶が長崎で大量に取り引きされるようになって生産が急増。八女地方一帯に茶園が見られるようになったとか。
しかし、それは山に植えただけの粗放な茶樹による、乾燥も充分でない粗悪なお茶だった。大問題になったアメリカでは、明治期に「贋製茶輸入禁止条例」や「粗製不正茶輸入禁止条例」を制定。インド産紅茶の台頭もあり、日本のお茶はその市場から締め出され、再び国内市場向けに作られるようになる。
「お茶の生産組合が全国各地で作られましたが、それは管理下において粗悪なものを作らないように取り締まるため。お茶を振興するとともにポリス的な役割もあるんです」(仁田原氏)

お茶を焙じる薫りにはリラクゼーション効果あり
1つの茶の実の中に、1粒から5粒の種子が
3月に入って暖かくなると新芽が顔を覗かせる
お茶は中国雲南省が原産地。平安時代に日本へ

福岡県全てのお茶が八女へ

時代は再びとんで1973(昭和49)年、旧八女茶農協連跡で[福岡県購販連茶流通センター]が発足。それまで地域の農協単位で取引されていた福岡県内のお茶が一堂に会すように。現在は[JA全農ふくれん 茶取引センター]と称し、今年もまた4月に新茶の季節を迎える。7月までの4ヶ月間、高級ブランド・八女茶の取引でおおいに賑わうのだ。


なぜ八女茶は日本一なのか?

※全国茶品評会にて平成13年度から平成24年度まで12年連続で農林水産大臣賞を受賞。

生産量2.3%で日本一

[JA全農ふくれん 茶取引センター]に福岡県内から集まり、茶屋を営む販売業者の玄人たちによって、一つひとつ品定めされる八女茶。お茶の中でも特に最上級にランク付けされる玉露は、全国茶品評会において平成13年度から平成24年度まで12年連続で農林水産大臣賞を受賞。それどころか、平成の30年間で22度も日本一を獲得しているのだ。生産量は静岡県が全国トップに君臨し続けているのに対し、福岡県はここ約10年の間6位で全国の2.3%に過ぎない。それなのに、なぜ日本一をとることができるのか。

小さな産地だからこそ

茶取引センターにずらりと並ぶお茶を販売業者が吟味

まず挙げられるのが気候条件と土壌条件の良さだ。八女は山地に囲まれ、西には有明海が広がっている。温暖な気候で年間1600~2000㎜の適度な量の雨が降る。また、矢部川から流れてきた多様な堆積物のおかげで土壌は変化に富み、小さな産地ながら各地で特徴的なお茶を作ることができるという。
土地が狭いからこそ、生まれるメリットもある。
「生産者は朝、取引センターに行けば昨日高く売れたお茶がわかる。素早く情報を仕入れて、お茶屋さんがそのとき一番欲しがっているお茶を作ることができるわけです」(仁田原氏)
広々とした茶畑で大量生産する他県とは違って、フットワーク軽く対応できるコンパクトな茶畑であるために、規模は小さくともニーズのあるニッチな市場を狙うことも。
さらに八女茶には、日本一を生み出す事情として同じく高級茶で知られる宇治茶とは決定的な違いがある。
「京都は文化レベルが高くて、なんでも権威化する傾向があるようで、お茶の世界でも特定の生産者が崇拝されているんです。でも、八女にはそんな風習がないからライバル視してしまう。だから、トップレベルの生産者が30人近くいて誰が一番になるかわかりません」(仁田原氏)
しのぎを削る生産者たちは伝統に固執することなく、より評価されるお茶を目指して栽培方法も加工方法も毎年試行錯誤を重ねる。だから八女茶は今と昔では違うし、それどころか年によって変わる。もちろん、美味しくなければ舌の肥えた販売業者に高く購入してもらえない。
「八女茶は後味がいい。キレがいい。それが一番大事。さっぱりしてもう一杯飲みたいと思わせることが日本一の高級茶たる所以です」(仁田原氏)


八女茶、世界に羽ばたく

海外進出への取り組み

すっきりとした八女茶はフレンチやイタリアンとも好相性

戦前にはアメリカでほかの生産地の銘柄とともに不良品の烙印をおされた八女茶だが、今や押しも押されぬ高級ブランド。再び世界に打って出ようと、福岡県茶業振興推進協議会など各団体はあの手この手でその素晴らしさを海外に発信している。
例えば、ドイツで開かれる最大級の食品総合見本市「ANUGA」に八女茶を出品し、フランスでは日本茶インストラクターによる八女茶セミナーが開催されている。
また、日本では昨年末、八女伝統本玉露推進協議会が「福岡八女インターナショナルティーセッション」を開催。福岡県在住の海外エグゼクティブを招いて、コース料理の一皿ごとに異なる種類の八女茶を合わせるティーペアリングが行われた。

フレンチの巨匠が絶賛

こうした活動の甲斐あってか、日本にも大きな影響を与えたフレンチの巨匠、ジョエル・ロブション氏が八女伝統本玉露を高く評価。氏がプロデュースするコース料理の中で八女茶が採用されることになった。これをきっかけにEU諸国で人気が高まることを期待され、八女茶を取り巻く人々はおおいに沸き立っていた。
だが、昨年ロブション氏の訃報の知らせが届く。後継者はいたものの、結局約束通りにとはいかなくなってしまい、今も交渉を続けている。八女茶をPRするべく、自身もヨーロッパを巡った仁田原氏は言う。
「海外の国々は非常にドライで、動きが早い。それについていけるように、八女ももっとフットワークの軽い産地にならなければ」
確かに八女茶はまだ、海外で権威ある大きなタイトルの受賞には至っていない。だが、古い慣習や既成概念に捉われることなく、先を見据えて泥臭く進化し続ける八女茶の可能性を思えば、良質なお茶で再び世界を席巻する日も近いかもしれない。


八女茶をとことん味わう あの店、この店

余韻まで美味いお茶の概念が変わる90分

その夜、日本茶鑑定士・木屋康彦氏の手によりまず繰り出されたのは、ワイングラスに注がれた「水出し煎茶 茶ノ匠 芳友」。光と戯れて揺れるエメラルドグリーンのなんと美しいこと! 「伝統本玉露 星野しずく(熟成1年)」の小さな湯呑に注いだその色は透明に近く、底にちらちらと緑が見える。口に含んで驚いた。濃い。甘みと苦みが同時にずしんと舌にのしかかる。5煎目まで変化する味と薫りを楽しむと、最後に「焙じ茶 星之音」が登場。グラスの中にふくらんだ香ばしい薫りが鼻孔どころか顔中を覆ってしまう気さえするのに、その味わいは実に軽やか。
八女茶の複雑さ、奥深さにすっかり感服。その真髄を確かに感じた。

特別なお茶を最高の組み合わせで

「日本茶鑑定士による八女茶の真髄を愉しむ90分のコース」(1人3,240円~)は、その日お勧めのお茶を最高の器、菓子、空間で頂く。少々の茶話とともに。

茶房 星水庵

 ☎ 0943-52-2124
[所]八女市星野村4529-1
[営]コース利用可能時間/13:00~16:30 19:00~21:00 ※日時調整のため早めに要予約、当日不可
[休]不定
[P]有


  • ホイロ香の
    まろやかな薫り漂う

    1 YAMECHA
    八女茶

    伝統製法で炭火を焚き、八女和紙の上で丹念に焙煎した「焙炉式 玉露(80g入り3,240円)」と「焙炉式 煎茶(80g入り2,160円)」。濃厚な甘みと旨みがあり、薫り高いお茶を堪能できる。

    矢部屋 許斐本家

     ☎ 0943-24-2020
    [所]八女市本町126
    [営]9:00~17:00
    [休]第3日曜※4~5月及び催しと重なる日を除く/臨時休業あり

  • お茶の深い味わいを
    優しい食感で

    2 SWEETS
    八女茶のラングドシャ

    八女茶のラングドシャ「茶一葉(10ヶ入り1,350円・3ヶ入り405円)」は、お茶の風味をしっかり残した生地でチョコレートをサンド。岩田屋本店、岩田屋久留米店でのみ販売。

    お茶の光玉園 岩田屋久留米店

     ☎ 0942-35-7111
    [所]久留米市天神町1-1 岩田屋久留米店B1F
    [営]10:00~19:00
    [休]元日のみ

  • 心までとろける
    プレミアムアイス

    3 SWEETS
    抹茶アイス ほうじ茶アイス

    15年前に試行錯誤を重ねて作られたという「星野愛す(抹茶・ほうじ茶各291円」は、お茶の旨味を凝縮した濃厚な味わいで、一度口にしたら忘れられない逸品。10秒チンして召し上がれ。

    茶房 星水庵

     ☎ 0943-52-2124
    [所]八女市星野村4529-1
    [営]物販 9:00~17:00 喫茶 11:00~17:00(OS16:30)
    [休]不定※喫茶は水曜

  • ワインボトルで
    お洒落にお茶を頂く

    4 TEA GOODS
    フィルターインボトル

    食事の時に水出し茶を愉しんでほしいという思いからできた、ワインボトル型の「フィルターインボトル(全8色2,160円)」。耐熱性だから温かい飲みものも保存できて便利。

    茶匠 むろぞの

     ☎ 0943-22-2675
    [所]八女市今福917-2
    [営]9:00~17:30
    [休]日曜、祝日

  • きれいな緑色が
    サッと出て時短に

    5 YAMECHA
    八女茶のティーバッグ

    ティーバッグなら1人分でも手軽に入れられて片付けもラクチン。「特上煎茶ティーバッグ(2g×10個入り540円)」は、プレゼントにも最適な可愛らしい和柄パッケージ入り。

    茶匠 むろぞの

     ☎ 0943-22-2675
    [所]八女市今福917-2
    [営]9:00~17:30
    [休]日曜、祝日

  • グリーンの生地が
    抹茶の濃さを物語る

    6 SWEETS
    八女抹茶のシフォンケーキ

    お茶屋ならではの抹茶スイーツを楽しみたいなら、牛島製茶が展開する和カフェの「八女抹茶シフォンケーキ(780円)」はいかが。自社工場で挽かれたこだわりの八女抹茶を使用。

    牛島製茶 筑後けやき通り店 和cafe Leaf Heart

     ☎ 0942-52-5288
    [所]筑後市大字徳久180-6
    [営]カフェ11:00~18:00(OS17:30)物販 9:30~18:30
    [休]不定