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筑後発!知られざる幻のブランド牛

筑後発!知られざる幻のブランド牛

多種多様な肉が乱立する空前の肉ブームの中、知られざる地元ブランド牛があるのをご存知だろうか?
そこには徹底したこだわりと、あくなき情熱を注ぐ生産者の姿が。
想いを知って味わうと、美味しさもまた格別。

生産者の顔や想いが求められる時代

日本の肉食文化の象徴といえば焼肉店が主流だったが、近年では従来よりも客単価が高い海外の人気ステーキハウスの出店に始まり、熟成肉、果てはジビエ料理までジャンルレスに肉料理を食べる人が多くなった。楽しみ方の幅も広がり、各地で開催されている肉フェスや、肉×チーズ、肉×ウニなどの掛け算グルメ、肉食ダイエットなども近頃のトレンドだ。選択肢が増えたことで消費者の目も肥え、美味しい肉に対する欲求も高まっている。野菜や果物と同じように、品質や産地にこだわったもの、安心・安全を追求した作り手の顔が見えるものが求められる時代に。

ブランド牛の勢力図が変化している

一昔前は、松坂牛や近江牛、神戸牛を代表するような最高級ブランド牛が主役の座に君臨していたが、畜産農家独自の特長を存分に生かした小規模生産のブランド牛の人気も今の肉ブームを牽引している。小規模生産はストレスが少ない環境でのびのび育つことも魅力のひとつ。また、肉の成長を促進させる抗生物質を使用しなかったり、オリジナルの飼料を配合したりと飼育方法にこだわった畜産農家も増えている。
かつては美味しい肉=霜降り肉のイメージが強かったが、健康意識の高まる昨今は、消費者のニーズも変化。脂肪が少なく旨味成分をたっぷり含んだ赤身肉派が拡大し、そんな需要にマッチしたご当地ブランド牛も人気だ。

福岡にも注目のブランド牛がズラリ

福岡のブランド牛もしっかりと食卓に根付きつつある。柔らかく濃厚な旨味の「博多和牛」、適度な脂がのった「糸島牛」、赤身肉が特徴の「赤崎牛」などを提供する肉料理店やスーパーも多い。いずれも良い牛を育て、上質な肉を提供するために飼育環境に力を入れた生産者のひたむきな努力がある。そして、この筑後にも理想を追求し続ける生産者が生み出した注目のブランド牛がある。希少価値が高く、幻の肉といわれるその牛の正体とは!?


40年余の歳月を費やして誕生した船小屋牛

40年余の歳月を費やして誕生した船小屋牛

こだわりの飼料で、肉のプロもうならせる肉質へ

船小屋牛とは約8年前に筑後市で誕生した新ブランド牛。ほど良い脂と赤身のバランスが良く、甘くてジューシーな味わいが特徴だ。筑後地域の一部の焼肉店や精肉店にしか流通していないことから〝幻の牛〟と呼ばれるように。現在、県内外からメディア取材が訪れるほど注目を集めている。有名ブランド牛と比べると値段が高くないのも人気の要因だろう。
筑後市ののどかな田園風景が広がる一画に、船小屋牛を育てている實本牧場がある。優しい笑顔と大らかな雰囲気で牛を見つめる生産者の實本太さん。「F1という黒毛和種の交雑種のジャージーとホルスタインを約120頭、母ちゃんと息子夫婦4人で育てています」。船小屋牛のバランスの良い旨味と肉質の秘密は飼料にある。酒粕、ビール粕、パンくず、おからなどを混ぜ合わせたオリジナル飼料「太っちゃん」を与えることで、味わい深い上質な肉になる。「最初は市販の配合飼料だけやったけど、ゴマを入れたり、いろいろチャレンジしたよ」。實本さん自身がお酒が好きだったこともあり、酒粕を飼料に混ぜた。「酒は美味しいし、牛も喜ぶんやないかと思って(笑)」。酒粕を飼料に加えてから精肉店の評判も良く、船小屋牛誕生の足がかりになった。

地域に愛される牛を育てるために研究の日々

船小屋牛の始まりは40年以上前に遡る。實本さんが牛の生産を始めたのが当時19歳。ホルスタイン1頭の飼育からスタートしたが、畜産農家を襲った風評被害などの様々な困難や価格競争の激化、有名ブランド牛人気もあり厳しさを痛感した。「自分にしかできない牛を育てる」と一念発起。〝地元の人に愛される肉〟をテーマに、牛の選定から飼料の見直し、生産原価を下げるために試行錯誤し、船小屋牛として形になるまで30年もの年月がかかった。
長年付き合いがある精肉店[よしおか総本店]の3代目・吉岡利茂さんもブランド確立を手助けした。牛の肉質や味の良さ、實本さんの情熱や徹底したこだわりに心打たれ、「ただの国産牛として売り出すのはもったいない」と、一緒に新ブランド牛をどう売り出すか話し合いを重ねた。当時、九州新幹線開通を控え、船小屋全体に注目が集まっており、ご当地グルメにするべく船小屋牛と命名。今は4代目・吉岡龍美さんがPRに力を入れ、ふるさと納税の返礼品としても取扱いされるなど、知名度も上がっている。「吉岡さんと私は二人三脚。私たちは良い牛を育てることに注力し、吉岡さんがしっかり売ってくれる」。生産者と精肉店がこれだけ密に連携するのは珍しいという。人の繋がりを大切にする地域性が強力なライバルと闘うための武器になった。

真っ直ぐな愛情を受けた船小屋牛たち

一頭一頭、表情を見ながら家族のように牛を育てるという實本さん。「人と同じでストレスがかかる環境が一番良くない。牛舎が汚れると体調を崩す原因になる。牛たちに気持ち良く過ごしてもらいたい」と、常に清潔な状態を保つことを心がける。「うちの母ちゃんには頭があがらんよ。我が子を育てるように牛たちの面倒や体調を見てくれてるから(笑)」。
小学生が牛を見に来たり、地域の人たちが牧場を温かく見守ってくれることもありがたい。筑後地域に恩返ししたいという想いが自然と込み上げる。「地元の人に食べてもらって喜んでもらえると本当に嬉しい」。牛を見ている時が幸せな時間だと語る實本さん。愛情をいっぱいに受けた牛たちは、心なしか穏やかな眼差しをしていた。

左から吉岡龍美さん、實本太さん。より上質な牛を育てるための意見交換も頻繁に行っている

船小屋牛が買える4店

  • 1よしおか総本店 本店

     ☎ 0942-33-3983
    [所]久留米市東町397-1
    [営]8:00〜17:30
    [休]日曜・祝日

  • 2よしおか総本店 八女支店

     ☎ 0943-23-1537
    [所]八女市納楚708-10
    [営]10:00〜18:00
    [休]火曜

  • 昭和11年創業の地元に愛される老舗精肉店。牛と馬を一頭買いして自社工場で加工。長年経験を積んだ職人たちが肉を傷つけないように丁寧に解体するのも美味しさと鮮度を保つためのこだわり。馬刺しや船小屋牛などが新鮮な状態で販売されている。

  • 3みづまの駅

     ☎ 0942-65-2039
    [所]久留米市三潴町高三潴534-1
    [営]10:00〜18:00
    [休]1月1日~4日

    地元産を中心とした野菜や果物、精肉などが揃う。船小屋牛の他に耳納山の豚肉などもおすすめ。店内には生簀もあり、鮮魚やお寿司も自慢。

  • 4肉のナラハラ

     ☎ 0942-32-9694
    [所]久留米市白山町440-1
    [営]8:00〜18:30
    [休]日曜

    地域密着の精肉店として、厳選した肉を販売している。貴重な船小屋牛を購入できる数少ない店舗のひとつ。手作りのメンチカツなどの惣菜も人気。


これであなたも牛肉通 【部位ごとの特徴とおすすめの食べ方】

  • 1

    イチボaitchbone

    お尻の先にある部位で、骨がHの形をしているためエイチボーンと呼ばれ、やがてイチボに変化。濃厚な旨味のある希少部位はステーキに。

  • 2

    外モモBottom Round

    運動量が多い部位。しっかりとした弾力のある赤身肉は、細切りにしてチンジャオロースにすると歯ごたえを楽しめる。

  • 3

    スネShank

    筋が多く硬い肉質なので、柔らかく仕上げるカレー・シチュー・ポトフなどの煮込み料理向き。スープを取るのにピッタリな部位。

  • 4

    ランプTop Sirloin Butt

    腰からお尻、ももにかけての部位で、脂身も少なくあっさりとした旨味が口に広がる。代表料理はランプステーキ。

  • 5

    内モモTop Round

    内股にあたる部分で、脂肪は少なくほとんどが赤身なので、赤身肉を楽しみたい人におすすめ。ローストビーフなどに適している。

  • 6

    サーロインSirLoin

    サーの称号が授けられたステーキの王様。上質な霜降りを堪能できる。厚めにカットすると旨味たっぷりの肉汁を逃さず味わえる。

  • 7

    ヒレTenderloin

    内臓の側にある希少部位の赤身肉。脂肪が少なく肉質が柔らか。ヒレの中で最も柔らかい部位が最上級のシャトーブリアン。

  • 8

    リブロースSpencer Roll

    肉のきめが細かく上品な味わいが魅力。脂肪も多く霜降りの量が多いほど高等級になる。ステーキなどのメイン料理に。

  • 9

    ともばらShort Plate

    一般的にバラ肉と呼ばれる部分で脂肪が多く、肉のきめは粗い。濃厚な味と風味が特徴で、焼肉や牛丼にするのがおすすめ。

  • 10

    肩バラBrisket

    繊維質や筋膜が多く、脂肪と赤身が層になった硬めな肉質。角切りにして野菜と煮込んだり、薄切りを使って肉じゃがに!

  • 11

    肩ロースChuck Eye Roll

    適度な脂肪があり、濃厚な旨味が味わえる。肩ロースの一部は特上カルビなどで提供される希少部位のざぶとん。

  • 12

    ネックNeck

    脂肪が少なく筋が多い部分。エキス成分やゼラチン質が多く含まれるので、スープ料理に利用するとより旨味が引き出る。

プロが教える肉の豆知識

  • 1

    牛には4つの胃があるって本当?

    牛の内臓であるホルモンは胃と腸の部分で、腸は焼肉でも定番のマルチョウ・シマチョウ・テッポウがあります。牛の胃は4つあり、食道のような役割の気管が第1~3の胃と呼ばれる部位。第4の胃が人間でいう胃の役割を果たしています。 ミノ(第1の胃) 牛の胃の中で最も大きい部位。しっかりとした硬さがあり、独特の臭みがある。 ハチノス(第2の胃) 蜂の巣のような見た目をしていて、煮込み料理などに使用されることが多い。 センマイ(第3の胃) 鉄分や亜鉛などを豊富に含み、黒い色とコリコリとした食感が特徴。 ギアラ(第4の胃) 濃厚な味わいと適度な脂肪が付いた部位。

  • 2

    家庭でできる上手な肉の焼き方

    熱していないフライパンに油をひいてから、冷蔵庫から取り出したお肉を置いて火をつけましょう。熱したフライパンで焼き始めると、表面にすぐに火が通ってしまいます。低温で焼く方が肉汁があまり出ずに旨味を閉じ込めておけます。

  • 3

    国産牛と和牛の違いって?

    和牛は品種名で、日本古来の種である「黒毛和種」と「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4品種と4品種間の交雑種で日本で飼育された牛。国産牛は外国品種を含む日本国内で飼育された牛(和牛以外の品種)です。

よしおか総本店株式会社 吉岡 龍美さん

昭和11年創業の久留米の精肉店の4代目。自社1頭買いの利点を生かし、希少部位などの販売も行っている。船小屋牛のブランド化にも尽力し、精肉店の枠を越えて精力的に活動している。

監 修

九州のブランド牛

雄大な自然や温暖で穏やかな気候など、牛がのびのび育つ環境が整う九州は畜産業が盛んなエリア。どの県に行っても銘柄牛と出合えるまさにブランド牛の宝庫。最上級銘柄の「佐賀牛」や、上質な霜降りが魅力の「おおいた豊後牛」、赤身の代表格でもある「熊本あか牛」、きめ細かな肉質を持つ「鹿児島黒牛」など味も特徴も様々なブランド牛を味わうことができる。

筑前あさくらの牛 福岡といえば「博多和牛」や「小倉牛」がメジャーだが、「船小屋牛」のように隠れたブランド牛がある! 地産地消を目的として育てられている「筑前あさくらの牛」もそんな銘柄のひとつ。質の良い水と緑に恵まれて育つ牛は、肉質が豊かで噛むほどに広がる旨味を堪能できる。