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オトナが集うすし屋にようこそ

オトナが集うすし屋にようこそ

何度も通いたくなる店が数多ある久留米において、すし屋もまた名店揃い。技で魅せるすし屋から伝統を受け継ぐ老舗までその魅力は様々。今回は「オトナ空間」に出演してくれた企業人がプライベートで通う、とっておきのすし屋を紹介。舌の肥えた大人たちがこよなく愛する店とは?

すしのルーツと、「江戸前ずし」の確立

そもそもすしの始まりは、長期保存するために魚を塩に漬け、水分を抜いた保存食がルーツといわれている。そこから鮒ずしが代表するような「熟ずし」というスタイルが奈良時代に定着。この頃は、米は食べずに発酵のために用いられていた。熟ずしは乳酸菌の力で発酵させた発酵食品の一種であり、この文化は東南アジアから伝わったものだ。
やがて「酢」が作られるようになると、米と共に木枠の押し型に敷きつめる「箱ずし」が生まれ、江戸時代には今の握りずしの原型となる酢飯とネタで食べる「早ずし」が誕生した。すしは保存がきかないため、江戸の近海(東京湾)で獲れた魚介類を手早く握り提供するスタイルが関東で広がっていく。これを今のすしの主流である「江戸前ずし」と呼び、確固たる地位を確立することに。当時は屋台で庶民が気軽に食べられることから、今でいうファストフードのような立ち位置だったという。戦後を経て、カウンターで職人が握る店舗型へと発展し、さらに個人の技術や独自のスタイルで勝負する小店舗型へと広がりを見せ、今のすし文化へと続くことに。

訪れる前に知っておきたいすし屋のマナー

敷居が高いすし屋を訪れる際に気をつけたいのがマナーや所作。勇気を出してのれんをくぐりたいが、店のルールがわからない…つい腰が引けてしまう…そんな不安な声も少なくない。気後れしないためにも、粋な嗜み方やスマートな振る舞いは事前に身につけておきたいところ。そこで気をつけるポイントを、全日本調理師協会師範の資格を持ち、専門学校の講師も務める[寿しの次郎長]の店主・勝野さんに聞いた。「お店の考え方にもよりますが、一番大事なのは他のお客様に迷惑をかけないことです。最近ではスマホなどで写真を撮影する方もいますが、店主にも一言声をかける気遣いが必要です」。
店によってはカウンターを傷つけないために腕時計を外す方が良いこともあるそうだが、基本的な服装や身だしなみにはそこまで厳しくないという。ただし、きつすぎる香水などはNG。また、カウンターにスマホを置いたままにしたり、足を組む、背もたれによりかかり過ぎるのは、粋な作法とはいいづらい。

食べるネタの順番は気にする必要なし

一般的に淡泊なものから濃厚な味の順に食べるのが好ましいとされるが、勝野さんいわく、食事量や好みは千差万別なので、自分が食べたいものから注文して構わないそう。店によっては「おまかせ」しかないところもあるが、これに善し悪しはなく、店の個性や哲学によるものなので、おまかせの構成から店主の想いやコンセプトを汲み取ってみるのも粋な楽しみ方のひとつ。
もうひとつ悩ましいのが、箸か手、どちらで食べるべきか。「マナー本などは箸で食べるのが好ましいと書かれていることが多いと思いますが、箸か手かはお客様次第です。どちらで食べても基本的に問題ありません。ただ、私は手で召し上がった方が美味しいと思っています。手で食べることでおすしを握った肌触りや感覚も楽しむことができますし、職人は口の中に入れてからほぐれるように握っているからです」。せっかく贅沢な時間を過ごすなら、マナーに気を配り、大将との会話や握り姿など五感全てですしを満喫して欲しい。


寿しの次郎長
寿しの次郎長  ☎ 0942-39-6366
[所]久留米市日吉町4-2
[営]11:30~14:00(OS13:30)
   ※ランチは不定休につきHPで要確認
   17:30~22:00(OS21:30)
[休]日曜、祝日の月曜
[P]有

80年余続く老舗の、心遣いに溢れた
料理ともてなしに酔いしれる

風格ある銀杏の一本板のカウンター、小窓から見える美しい木々の緑。贅沢で居心地の良い雰囲気に、これからの時間を期待せずにはいられない。創業80年余の老舗だが、この名店は常に驚きに満ち溢れている。時にジャズの生演奏が流れ、ワイン片手にすしを食べる。トイレにはホテル並みのアメニティグッズが揃う。すし屋や料亭などで17年間修行した3代目店主・勝野さんのセンスが店内の随所に光る。
もちろん空間だけではない。食材もまたしかり。魚の味を左右する潮流の環境が良い玄界灘の魚に惚れ込み、毎朝、博多の台所[柳橋連合市場]まで仕入れに行く徹底ぶり。
「食材が語るものを形にするだけ」という勝野さんが生み出す割烹スタイルの料理は、洗練された技のオンパレードだ。自慢の握りは醤油や塩であらかじめ味付けしたものを提供する技法だが、例えばその塩ひとつとっても妥協がない。玄界灘の魚に合う塩を日本全国、果ては世界の塩まで試すこだわりよう。素材の旨味を引き出すためなら、時間も労力も惜しまない。
「お客様のわがままをできるだけ聞き、できませんと言わないようにするのが信条です」。老舗になればコースだけを提供する店も少なくないが、刺身や酒のあてだけの注文でも構わないという。「お話しながらお客様の好みや、その日の体調に対応できるのがすし屋の良さですから」と柔和な表情の勝野さんは常にお客ファーストを実践する。シャリの固さも昼・夜・持ち帰りとシーンにあわせて変えるのも、もてなしの心から。
「次男の代が代々続くように」という願いが込められた店名の通り、初代から2代目、3代目と次男が継承しているのも運命めいている。受け継がれた技と心意気で、今日も人々を魅了する。

旬の素材を使った刺身や握りの数々も秀逸で、皿に盛り付けられた姿も麗しい。夜のコースは6,500円(税抜)~
一品料理の「鱧の松茸あんかけ」は、季節を感じる一皿。風味豊かな松茸の香りと、鱧の旨味を存分に楽しめる

オトナ空間 vol.14出演

青翠法律事務所
弁護士 富永 孝太朗さん

殻ごとのウニをスプーンですくって、少しずつ食べながらお酒を飲むのが至福のひと時。贅沢な時間にどっぷり浸れます。ウニの旨味を引き立てる絶妙な味付けもたまりません。料理はもちろんですが、日本酒やシャンパン、ワインのセレクトも素晴らしいお店です。

絶対食べて欲しい逸品


赤ウニ

昆布を加えたオリジナルの塩水で味付けした赤ウニ。殻ごと提供されるので見た目も楽しい。口に広がる磯の香りと旨味は、お酒との相性も抜群。季節ものなので来店時に仕入れ状況を確認してみて。


鮨しょう
鮨しょう  ☎ 0942-33-3280
[所]久留米市螢川町2-4
[営]11:30~14:30(OS13:30)
   ※ランチは前日迄に要予約
   18:00~LAST(OS21:30)
[休]月曜、第1日曜
[P]有

実直な職人が握る繊細な握りを、
静謐な空間で味わう喜び

凛とした和モダンな店内に、清廉な眼差しを浮かべながらすしを握る店主・堀川さんの姿がある。31歳にしてすでに舌の肥えた常連客の信頼は厚く、評判を聞きつけた久留米の食通もこの店の虜になっていく。久留米の名店で9年間修行し、魚の捌き方から目利き、接客に至るまで多くのことを学び、2017年に独立。「すし屋は敷居が高いイメージがあると思いますが、若い世代でも少し贅沢な空間でおすしを楽しんでもらいたい。私がやっていることで入店しやすくなると思います」。そう語るように、30~40代の客も多く、幅広い客層を受け入れる柔軟さも魅力のひとつ。
素材は近海産や全国から、その時々の選りすぐりのネタを仕入れ、忠実に仕込んでいく。米は粘りがなくさっぱりとしたササニシキを使用し、3種の酢をブレンドしたすし酢もシャリを際立たせる。小石原焼の窯元に直接依頼したオリジナルの器に、秀麗で艶やかなすしたちが躍り、口の中でほろりとほどけるシャリにもその技が見てとれる。
「料理は日々の向き合い方が問われます。その積み重ねが思いもよらぬ閃きに繋がるんで」。仕事には徹底して手をかける実直な姿勢こそ、若くても支持され、いつでも新鮮な出会いを約束してくれる理由だ。
素材本来の良さを引き出す刺身やすしはいわずもがな、季節感をテーマに構成されたコースは小鉢から焼き物、茶碗蒸し、汁物まで一手間も二手間もかけられ1万円~と、コストパフォーマンスも申し分ない。
「ここで食事をした子どもが大人になり、今度は自分のお金でカウンターですしを食べ、孫がまた通う。そんな繋がりが続いたら幸せです」。決して夢物語ではなく、いつまでも通いたいと思わせる条件が揃っている。

完全個室が2部屋あるので、プライベートや会合、記念日などの祝いごとにも利用しやすい
年末に楽しめるコース(内容は仕入れにより変更あり)。洗練された料理の数々は、堀川さんの技の真髄を堪能できる
華やかなネタが並ぶ「お正月の鮨盛り」もおすすめ。予約は12月20日(金)まで

オトナ空間 vol.10出演

株式会社 BeeMa
代表 福川 真由美さん

若い大将のセンス溢れる握りや料理は、訪れる度に感動を覚えます。カウンターで小気味良くすしを握る姿を見るのもほど良い緊張と臨場感があって楽しいです。どの料理も美味しいのですが、特に穴子の握りは最高。ふわっとした身とシャリのバランスに惚れます。

絶対食べて欲しい逸品


穴子の握り

脂の乗りが良い対馬産のブランド穴子「黄金あなご」の切り身を使ったリピート率が高い1貫。自家製の甘めのタレにつけて炙ることで、旨味と香りが引き立つ。ふわふわとした身の食感も楽しんで。