MONTHLY FEATURES 今月の特集
空間にストーリーを生むつくりびと
何気ない日々を過ごす空間。
そこにちょっと素敵な家具や雑貨があれば、取り巻く空気は一変。
職人の想いとあなたの想いが交錯し、空間に思わぬ物語が生まれるはず。
筑後で活躍する〝つくりびと〟の作品をぜひあなたの元にも――。
自然に抱かれて、
伝統を受け継ぐ
脈々と受け継がれてきた日本の伝統技法を用いて制作する添田 晨さんの家具は、一木から削り出された引き出しの取っ手やテーブルから伸びる脚など、密やかに弧を描くラインの美しさを見逃してはならない。流麗なデザインは何気なく咲く花々や葉の形など、目の前にあふれる自然がヒントを与えてくれるという。
そんな感性を育ててくれたのが添田さんの師匠。家具職人を目指すきっかけとなった人物だ。高校生の時に作ってもらった堅牢なベッドに大きな驚きと感動を覚えて弟子入り。しかし、寝る間も惜しまざるをえなかった約5年の修行期間は辛く厳しいものだったよう。体が悲鳴を上げ弟子上がりをしてから、一度は福岡を離れ職人として働いていた。だが、約8年の時を経て、師匠の計らいで育てられた古巣へ戻ってくることに。
「独立するなら地元福岡でという想いがありました。それにやっぱり、自然に囲まれた場所で作りたいと」
緑豊かな工房で育まれた確かな技術とセンスから生み出される作品たちは、「お客さんに考えさせちゃいけない」と第三者の視点から使いやすさを検証。機能性の充実も図られる。
例えば、つまみを軽く持ち上げるだけでガラスの蓋が開く靴箱(メイン写真 中央)。手を離すと空気抵抗によって音を立てることなくふわりと閉まる。ショーケースのように中身が一目でわかるから、お気に入りをお利口に並べたい。4つの引き出しは同じものに見えて同じでないという。それぞれ収まるスペースに合わせて異なる個性をもって作られ、その軽い滑りの気持ちよさと言ったらない。
座り心地が追求されたアームチェア(写真2 右)の優美なカーブは、2日間水に浸した一枚板を蒸し上げ、ぐっと力をかけてU字に曲げたもの。2週間の乾燥期間に裂け目が入らないよう手間暇かけた逸品で、体をぐいぐい預けたくなること請け合いだ。
質の良さから美術品のようにディスプレイしたくなるが、彼はあくまで生活に溶け込んだ使用を提案する。
「手の汚れ、脂、シミも傷も気にせず使ってほしい。それが味わいになるから。僕が仕上げているのは8割。あとは使う人に育ててほしいですね」
- 木工 添田 晨さん
- 太宰府市出身。画家の父を持ち、芸術家たちと交流する中で幼少期を過ごす。大学卒業後、父の知り合いだった家具職人の元に弟子入り。料理が好きで、自家製の甘酒を造ることも。
※誌面では「日本酒」と記載しておりましたが、「自家製の甘酒」の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。
求められるままに
流れのままに
細い針金が創り出す〝小さきモノたち〟は、眺めているとなぜだか優しい気持ちになれる。絶妙なバランスで佇む家や動物たちはもちろん、吊るされて揺れる幾何学文様のオブジェなど、壁に作られた影まで美しい。コーヒーペーパーホルダーやカゴといった日常使いの小物は、繊細ながら温かみを感じられる。
昭和の歯科医院を改装したお店の片隅で、関 昌生さんは気持ちの赴くままに針金をペンチで切ったり曲げたり。そうしている内に思わぬ〝発見〟の時が訪れる。その発見が新たな発見を呼び、想像だにしなかった形が生まれることを楽しんでいる。
始まりは仕入れた骨董品に、束になった針金がおまけで付いてきたこと。もったいないからと作ったモノが評判となって、各地で開かれる展示会や個展へ呼ばれることに。
作ることも、日々の営みも、雲水のごとく流れに身を任せるのが彼のスタイル。だから、ワイヤーアートも決して執着するところではない。
「続けていけたら嬉しいけど、違うことをやることになってもいい。先がわからないことを楽しみにしたい」
- ワイヤーアート 関 昌生さん
- 久留米市出身。23年前に骨董品で賑わう吉井町に移り住む。古道具屋を営む傍ら、ワイヤーアートの制作を始めて早20年。人に作品をアピールすることは苦手。
年輪を重ねて
より味わい深く
取材中も客足が絶えない。東京など遠方からわざわざ訪ねてくる人もいるとか。杉の木の厚いドアが洒落た造りのアトリエ兼カフェには、どっしりと重厚感あるテーブルやスツール、表面に刻まれた鑿跡が味わい深い皿やトレイ、カッティングボードが並び、優しく落ち着いた佇まいを見せる。人気の秘密を探ろうとするが、山口 和宏さんは柔和な笑みを見せながら困った顔でのたまう。
「モノの良さって言葉では伝えられないところがあります。音楽は頭で考えるのではなく、聞いて感じるものですよね。それと一緒じゃないかな」
木工職人として30年以上の経歴を持つ山口さん。現在はお店の切り盛りを娘に任せつつ、娘と結婚したことで彼の仕事に興味を持った義理の息子と2人で家具作りに励む。
「今使っている木は北海道や東北のナラ、クリ、ヤマザクラ、クルミ。昔、九州山地にもナラやクリの木がありました。でも使い尽くされて、今は植林されたスギやヒノキばかりで」
家具や小物を作るには見劣りするスギに付加価値を持たせた九州産の作品制作が目下の課題である。
- 木工 山口 和宏さん
- 北九州市出身。30歳の時に独立し、うきはの地に工房を構える。以来33年間、家具や小物を作り続けてきたベテラン職人。2018年8月にアトリエ兼カフェをオープン。
ガラスを使って
自由に遊ぶ
教会の権威を象徴するために時の権力者によって作られたステンドグラスは、国によって時代によって趣が異なるという。尾花 光昭さんは各時代の様式を取り入れつつ、今の時代を意識した作品を生み出す。
ギャラリーには和風から中国風、西洋の古式ゆかしいデザインまで、その絵柄も形もバラエティに富んだステンドグラスの作品が並ぶ。現在は菖蒲や椿、鳥獣戯画など和をモチーフとしたデザインを中心に制作。幻想的な光を我々に投げかける。
「なんでもやる。やろうと思えばなんでもできる。遊びながら試します」
その製法に決まりごとはなく、時には木工や鉄工等の技術とも組み合わせながら、尾花さんはガラスを使って自由な発想で遊ぶ。それはステンドグラスの歴史に連なる新たな潮流を作るものと言えるだろう。
「作っていたら100%いいものなんて。芸事は50歳でもまだ子どもと言う。70を過ぎないといいものができないって。職人もキリがない」
御年70歳を迎えた尾花さんがさらに成熟し、職人として最盛期を迎えるのはこれからなのかもしれない。
- ステンドグラス 尾花 光昭さん
- うきは市出身。油絵を描いていたとき、教会を飾るステンドグラスに興味を持つ。29歳で一年間スペインに留学し、絵付焼付の技法を習得。木工や鉄工等は独学で身に付ける。
作品のパワーで
人々を元気に
約10年前まで横山 克馬さんはヘアメイクアップアーティストだった。華やかな場所でその道のトップとして働き続けて30年。美容師としてやり尽くしたと思い悩んでいた時、娘のために手作りしたのがフィンランドに伝わる「ククサ」という木のカップ。それから一人で木工を始めた。
「独学でやれば誰も見たことがないものができるんじゃないかなと。自由な発想で作っています」
横山さんは大きなフシのある木材やごつごつとしたコブなどを好む。これらは材木店で避けられがちだが、彼が作る大きな皿はフシが幾重にも楕円を描き、その中心からエネルギーを発しているかのような独特の佇まい。また、数種の異なる色をした細い木材が周囲を縁取る時計や鏡は、大地を照らし出す太陽を表現。これらも生気に満ちて迫力ある作品だ。
「木は人間と違って素直(笑)。何でも受け止めてくれる。だから、どんどんアイデアが湧き出てくるんです」
横山さんは想いの丈を込めて制作に没頭する。作品からあふれ出るエネルギーが持ち主とその周囲の人々に燦々と降り注ぐことを願いながら。
- 木工 横山 克馬さん
- 久留米市出身。42歳まで東京でヘアメイクアップアーティストとして活躍。安室 奈美恵などを手掛ける。現在は久留米に戻り、木工職人として新たな道を究めんとする。