MONTHLY FEATURES 今月の特集

今、飲みたい!地元のクラフトビール

今、飲みたい!地元のクラフトビール

こだわりの素材を使って、人の手で作られるクラフトビール。
いよいよ地元にもブルワリー(醸造所)が増えてきた!
缶や瓶で呑むいつものビールとはひと味違う、クラフトビールならではの楽しみ方がそこにある。
そんなわけで、クラフトビールの作り手に会いに行ってきた。

File 01TOYFULL BREWERY山下 将輝

作り手と飲み手の笑顔を数珠つなぎにする
住宅地で飲めるクラフトビール

きっかけは就労支援だった

螢川町の住宅地の中にひっそりと佇む、昨年9月にオープンした[トイフルブルワリー]。ここはもともと、オーナーである山口 千尋さんの住居だった場所だ。家業の一環で障がいのある人向けの就労支援をしていたものの、コロナ禍により職場が減少してしまった。何とかしてこの場所に新たな就労支援の職場を作ろう、といろいろなアイデアを練り、久留米にまだブルワリーがないという事実に目をつけ、ブルワリー創業に乗り出した。
日本各地のブルワリーを訪れて技術を身に付けたのは、醸造責任者として現場を任される山下 将輝さん。自身はビール離れ世代にあって、飲み会でもビールをたくさん飲むほうではなかった。それでも、クラフトビールの奥深さを知るにつれトリコになっていったという。
「自分の手で作るようになって、同じように仕込んでも材料の状態や気温によって毎回出来が違うんです。タンクの中だけでも、始めと終わりでは全然違う。生きている感覚があります。発酵の状態を見るためによく試飲をしますが、捨てられなくて全部飲み干しますね」。

ビールのある場所を楽しんで欲しい

[トイフルブルワリー]のクラフトビールは、王道の旨さが味わえるもの2種と、ビールが苦手な人でも飲める軽めの2種。実際頂いてみると、「PUNKY」というIPAはホップの香りと苦味がガツンとくる王道らしい味。一方、「GREEN APPLE」というフルーツエールはビールよりリンゴが前面に出た爽快な味わい。
オーナーの山口さん自身、お酒自体ももちろん好きだが、何よりお酒の場に出向くことが好きで、その場での出会いがブルワリー開業にも繋がり、財産になっているという。「ここもそういう場所として親しまれたら」という願いから、ランチ時からオープンしている店内は会話や笑顔が飛び交う温かい雰囲気が醸されている。ビールの得手不得手、障がいのあるなしに関わらず、誰でも垣根なく一緒に楽しく過ごせる場所。ぜひ、ふらりと訪れてみては。

料理長やホールスタッフたちの和気あいあいとした雰囲気が、こちらにも伝わってくる
ビール醸造の全般を山下さんが担当。その時々で味は微妙に違うという
4つのおつまみ盛り合わせは、4つのビールとのマリアージュが楽しめる

TOYFULL BREWERYの
クラフトビール

パンキー
PUNKY

SESSION IPA※1

一般的なラガービールの40倍のホップを使用。強烈なホップと苦味が重厚な王道IPA

ハロー
HELLO

PALE ALE※2

ホップの香りが優しい、スッキリと喉越しの良いビール。しっかりした食事メニューの相棒に

ショコラオレンジ
CHOCOLAT ORANGE

FRUIT STOUT※3

カラメルとオレンジの皮の香りが芳醇な、ほろ苦さのあるビール。スイーツと合わせるのも◎

グリーンアップル
GREEN APPLE

FRUIT ALE

リンゴの爽やかな酸味と風味。ビールらしい苦味がほぼなく、ビールが苦手な人におすすめ

※1 IPAは「India Pale Ale」の略で、強いホップの香り・苦味・やや高めのアルコール度数が特徴
※2 ペールエールはイギリス発祥の淡色タイプのビール。柑橘のような華やかな香りとコクのあるバランスの良い味
※3 スタウトは、ローストして黒くなった大麦を使ったビール。色が濃く、コーヒーやチョコレートのような香りが特徴

TOYFULL BREWERY トイフルブルワリー
☎ 090-1143-5959 [所]久留米市螢川町59-1 [営]11:00~23:00 [休]不定 [P]有

File 02八女ブルワリー佐野 史香

矢部川の豊かな水がビールを旨くし、
ビールが人との新しい縁を紡ぐ

ビール好きが高じて醸造責任者に

温泉施設として知られる八女市の[べんがら村]内に[八女ブルワリー]が作られたのは、25年ほど前のこと。当時はまだクラフトビールの認知度も低かったものの、すぐそばを流れる矢部川の伏流水を使って何か地域特産の名物ができないか、と考えた中でビール醸造は始まったそうだ。温泉に浸かった後、ここの地ビールを飲んだ記憶がある人もいるかもしれない。
その後、[べんがら村]は約1年の改修工事期間を経て昨年春にリニューアルオープンした。新たにクラフトビールの醸造体験ブースや多目的ルーム、屋外広場が整備され、子どもから大人までがゆるりと集う場として再出発。ちょうどクラフトビールが注目を集めるようになってきたこともあり、クラフトビール醸造もさらに本格化。温泉とともにここの中核をなす施設になった。
醸造の現場をほぼ一人で担う佐野 史香さんは、リニューアル前はレストランのホール担当だったそうだ。〝無類のビール好き〟として醸造責任者に指名されたときは驚いたものの、「挑戦したい!」との思いで一念発起。前任者からビール作りのノウハウを引き継ぎ、2年前から現場を任されている。水を汲み上げたり、瓶を持ち上げたりと小柄な女性にとっては苦労も多いのかと思いきや、「おかげで刺激的な毎日を過ごしています」となんとも楽しそうだ。

八女の自然を味わうビール体験を

[八女ブルワリー]での一番人気は、黄金色が美しい「ピルスナー」。仕込みの段階で八女茶を加えて爽快感を出していて、瑞々しくフレッシュな味わいとスッキリとした喉越しでとても飲みやすい。「他のビールもたくさん飲んで研究したけれど、水の美味しさはビールの味を左右します。ピルスナーを飲んでもらったら、それを感じてもらえるはず」と佐野さん。そのほか、福岡県産ぶどうを使った「ぶどうIPA」などフルーツのフレーバーが楽しめるものや、八女杉の香りを付けたビールを試したこともあるとか。
「地域に根付いたビール、というのは創業以来の目標ですね。八女の食材はどんどん取り入れたいです。この辺りはブルワリーがまだ多くないので、醸造士同士の交流もあるし、コラボで生まれるアイデアもあります。ビールが縁で人と繋がっていくのが面白いですよ」。
〝無類のビール好き〟が作るビールらしく、どのビールにもホップの香りが活きてビール感がある。八女の自然を味わうクラフトビール、ぜひ温泉の後に楽しんでみては。

クラフトビール醸造体験ブースでは、実際の1/27という本格的設備でビールを作れる
瓶詰めも1本ずつ手で。まさに手作りのビールだ
グラスできめ細やかな泡を堪能するのもおすすめ
レストランには甘辛タレで仕上げたスペアリブなど、IPAに合う料理も

八女ブルワリーのクラフトビール

ピルスナー

Pilsner※4

ラガータイプのビール。瑞々しく爽快な喉越しで、飲みやすいのが特徴。「八女茶」使用

ブラック

ロースト麦芽の香ばしさ、豊かなコク。「Japan Great Beer Award 2022」で金賞受賞

IPA

ホップの風味と苦味が特徴で、柑橘系のような香りが楽しめる。「深蒸し八女茶」使用

ぶどうIPA

福岡県産ぶどうを使用。フルーティーさもありながら、ホップの程よい苦味が味わえる

※4 ピルスナーはチェコのピルゼン地方原産のビール。日本で親しまれるラガービールの一種で、淡色できめ細やかな泡が特徴

八女ブルワリー
☎ 0943-24-3339 [所]八女市宮野100(べんがら村内) [営]10:00~18:00 [休]火曜 [P]有

File 03ブルワリー柳河黒田 信久

じっくりと深く堪能したくなる
日本酒の杜氏が作ったビール

お堀のほとりに佇む古民家が醸造所に

水郷・柳川の代名詞ともいえるお堀のすぐそば、船頭さんの声が聞こえそうな場所に佇むのが[ブルワリー柳河]だ。外見だけだとカフェかレストランのようで、ここで何種類ものビールを作っているとは想像しない人も多いだろう。
ここでクラフトビール「柳河エール」を作るのは黒田 信久さん。ずっとビールとは無縁の仕事をしていたが、56歳の頃に早期退職し、故郷で何かをしたいとの思いで柳川に戻ってきた。みやま市の酒蔵で日本酒作りに取り組む一方で、発酵に関する経験をビールに活かせないか、との思いが芽生えたという。もともとお酒を飲むのが好きだったのもあって、[八女ブルワリー]などを見学して知識を付けた後、昨年3月にここでブルワリーを開業。以来、ほぼ1人でビール醸造に取り組んでいる。

地元食材を使ったおつまみとともにクラフトビールを味わう、スロウな楽しみ方がここにある

新しいビールの楽しみ方との出会いを

黒田さんが作る「柳河エール」は、一般的なビールとは一線を画している。泡の量がかなり少なく、適温も6~10℃と少し高めの設定。一般的なビールで重視される泡立ちや喉越しを敢えて抑えていて、琥珀色の麦汁自体の味をじっくり、ゆっくりと味わいたくなるビールだ。まるでイギリスのパブで親しまれるような、欧州のビールに通じるものがある。
「泡や喉越しでごまかさない、本物の美味しさを味わうビールを目指して作っています。日本酒やワインのように、食事とのペアリングを楽しみながら味わって欲しい。杜氏が作るビールですから、日本酒のようなビールっていうんですかね。日本酒が純米酒といわれるので、柳河エールは純麦酒というようなイメージで作っています」。
勢いよく飲み干すビールとはまったく違うスタイルの、ゆっくり過ごす時間をもたらしてくれるクラフトビール。飲んでみると、確かに炭酸も感じるが飲み口が柔らかく、麦芽とホップのまろやかな味と香りが豊かに感じられる。なるほど、ビールって炭酸が弱くても成立するものなんだ、と目からウロコが落ちるような感覚だ。店内で頂ける地元食材のおつまみと組み合わせて、一つずつ相性を確かめながら味わうのも楽しい。
「『Wheat Ale』は大麦に加え小麦も原料にしたビールで、現在ドイツ産麦芽を使っていますが、将来的には一部でも柳川産の小麦にしたいと思っています。日本酒の方も忙しいんですが、好きなようにビール作りができるのが楽しい。出来立ての旨さは格別ですよ」。
深い琥珀色のように、深みのある味わいが新鮮な柳河エール。[ブルワリー柳河]には、そんな新しいビールとの出会いがある。

黒田さんと、料理担当の西濱さん
うまく発酵が進んでいるか、タンクからサンプルを取り出してルーペで確認しながら見守る
和風の佇まいに掛けられた、軒先のビールの看板が目印

ブルワリー柳河のクラフトビール

スタウト
Stout

コーヒーのような香りのある重厚かつ柔らかい味わい。濃い味の料理やスイーツと合わせても

ウィートエール
Wheat Ale

小麦も使用。やや酸味を感じる、スッキリした美味しさが特徴。淡白な味の料理に合わせて

アンバーエール
Amber Ale

ワインで言うならフルボディーのようなコクのある深い味わい。肉料理など濃い味を引き立てる

ペールエール
Pale Ale

柑橘系の香りとまろやかな麦芽の味がバランスの良い味。前菜など軽めの食事と好相性

ブルワリー柳河
☎ 0944-72-1005 [所]柳川市沖端町7-3 [営]12:00~21:00 [休]月~木曜※ほか不定休あり [P]有