MONTHLY FEATURES 今月の特集
まったりと、有田焼にふれる
器が好きなら、手に入れたいのが有田焼!
透き通るような白さ、絢爛な絵付けの美しさで愛される有田焼には、
400年を超える歴史の分だけ、引き継がれてきた技と思いが刻まれている。
暮らしのそばにあり続けてきた有田焼のすばらしさに改めてふれてみよう。
かつて有田焼は輸出品として作られた
全国的にも知られる陶磁器の名産地・有田。17世紀初頭、朝鮮人陶工の李参平(日本名・金ヶ江三兵衛)らが有田の泉山にて、磁器の原料となる良質な陶石を発見することからその歴史が始まる。
当時、国内は江戸時代の初期、2代目将軍・徳川秀忠の頃。磁器といえば、世界に先駆けてきめ細かく美しい白磁の生産を始めた中国・景徳鎮が一大産地として名を馳せていた。が、しばらくすると中国の内乱により景徳鎮での生産量が激減。陶石が発見された有田でも景徳鎮製に似た白く上質な磁器の生産が可能になったため、世界の磁器需要を一手に有田が引き受けることになった。ちなみに、この時は伊万里港から出荷されていたため「伊万里焼」と言われていたそう(これが現在でいう、古伊万里のことだ)。
初期の有田焼は、藍色に発色する呉須で絵付けした単色の「染付」のみで素朴な印象だったが、1640年代には初代・酒井田柿右衛門によって絵の具で彩色した「色絵」が始まる。
この頃、江戸幕府は鎖国に踏み切っていたが、有田焼を買い付けたいオランダ側の要望に応えるため「色絵」以外にも「鍋島様式」や「金襴手様式」といった表現方法を生み出すなど技術革新を推し進め、急速に中国の製品に遜色ないレベルまで向上した。その甲斐あって、1659年にオランダ向けの輸出を本格開始。ヨーロッパの王族や貴族の間では、有田焼を持つことがステータスとなっていたそうだ。今でも、世界各地の博物館に有田製の食器や家具、調度品が飾られていることからも、重宝されていた様子が窺える。
使いやすく食を彩ってくれる器
1680年代に中国が陶磁器の輸出を再開すると市場競争が激しくなり、磁器の市場が国内にも広がり始める。海外向けの美術品、または一部富裕層向けのものだった有田焼が、大衆向けの暮らしの器としても普及。ちょうど庶民の間で外食産業が盛り上がってきた時期でもあり、装飾を省略した日本人好みの器が多くなって、有田焼とともに庶民の食卓は華やかで豊かなものになった。のちに、明治初期に鉄道が開通して有田から直接出荷できるようになったことをきっかけに、全国に「有田焼」の呼称が広まったそうだ。
400年を経た今でも、有田焼は変わらず白い陶石を原料に1つずつ職人の手で生み出されるものばかり。他の工芸品と同様、生産現場の人手不足や安価な工業製品に悩まされながらも、敢えて品質本位の製法を守り続けている。成型でも絵付けでも、伝統的に守られてきた先人の知恵が生かされているからこそ、有田焼は美しいし、丈夫で使いやすいし、人の心に残るのかもしれない。そんな有田焼の歩んできた道のりに思いを馳せつつ、食卓を豊かに彩る一枚を探しに、有田を巡ってみよう。
心ときめく 器を求めて
有田に来たからには、
食事がより一層引き立つような
一枚を手に入れて帰りたい。
有田焼と一言でいっても、
窯元により異なる表情を見せてくれるもの。
時間がいくらあっても足りない、と前のめりなあなたに、押さえておくべき3ヶ所をご紹介。
幸楽窯
継承と開拓が同居する磁器のテーマパーク
たくさんの窯元が稼働している有田でも、伝統的な技術をしっかりと継承している窯元は減りつつある。創業から150年以上の歴史ある[幸楽窯]は、創業当時からほぼ全行程を一貫して製作できるよう、技術と設備を受け継いでいる。特に、粘土を器の形に成型するための石膏製の「型」は、一般的には型の製作所に依頼する窯が多いが、ここでは社内で作ることができる。数万種の磁器の原型が今も工場内に保管されていることは、受け継いできた技術の多さを示しているのだろう。
[幸楽窯]が得意とするのは、隅々まで工夫を凝らした遊び心のある器。鶴や亀を模った「言祝ぐ器」や、表情がなんともいえないカワセミ型の醤油さしなど、さり気ない可愛らしさの中にも繊細な手仕事を感じさせるものが多い。
また、2014年からは海外アーティストの受け入れも開始。斬新なアイデアを受け入れて、新しい有田焼のプロジェクトを広く発信中。広い敷地内には長年稼働する工場と直営ショップだけでなく、射的体験(失敗作の器が的に!)やレストハウス、キャンピングカーのレンタルもあり、レジャー気分でふらりと遊びに行ってもOKな〝オープンファクトリー〟。伝統を守りつつもどんどん門戸を開き、前進することを厭わない懐の深い窯だ。
トレジャーハンティング
蔵の中に積み上げられたトロ箱は、表に出回らない仕掛品や古い焼物でいっぱい。90分かけて自分好みの掘り出し物を見つけ出す人気プログラム。中には珍しいものもあり、カゴ1杯分が5,500円~とかなりお値打ち。ワクワクしながら箱を覗く瞬間はまさに宝探し!
じっくり探そう!
ミミズプロジェクト
長年放置された器を再び窯で焼くと、表面にミミズが這ったような筋が表れる。これが原因で不良品とされた器に海外アーティストが着目。その筋を利用した絵付けをし、器として再生させた。海外アーティストならではの感性が新たな価値を生んだ事例だ。
同じ柄がないのが
魅力
☎ 0955-42-4121 [所]佐賀県西松浦郡有田町丸尾丙2512 [営]8:00~17:00 [休]年末年始 [P]有
アリタポーセリンラボ
伝統柄に現代の要素を加えた
モダンな有田焼
有田焼らしさが最も表現されるのが、多彩で緻密な絵付け。とはいえ、伝統的な柄は現代の食文化やダイニングにはうまく調和しないこともあり、有田焼という市場が厳しい状況にあった頃、200年以上続く老舗・弥左ヱ門窯を引き継いだのが現在の7代目だ。伝統的な絵柄をモダンな配色にした「JAPAN」、古伊万里式の紋様を楽しめる「SHIN YAZAEMON」など、有田焼を現代らしく再定義したシリーズをいくつも打ち出している。
☎ 0955-29-8079 [所]佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-11-3 [営]11:00~17:00 [休]火曜 [P]近くに無料Pあり
アリタセラ
美術品も、実用的な器も
ここなら揃う
いわば、有田焼のショッピングモールといった雰囲気の[アリタセラ]。22の専門店の中には、大きな美術品を扱う店、珍しいオリジナル商品を扱う店も入っていて、高級食器や業務用食器、普段使いの食器、先進的でデザイン性の高い食器まで、取扱商品の幅が実に広い。また、中にはレストランやベーカリー併設の店舗もあり、大型駐車場もあるので、久留米から日帰りで訪れてもたくさんの器と出会えそう。
☎ 0955-43-2288 [所]佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2351-169 [営]10:00~17:00※店舗により異なる [休]無 [P]有
もっと有田焼を感じる、
有田散策
町全体に伝統的建築物が多く現存していて、どこを切り取っても絵になる風景が楽しめる有田。
小さな路地を入ったところにも器のギャラリーがあったり、史跡があったりと、
焼物の町であることが存分に味わえるはず。
時間の許す限り、気の向くままに歩いてみよう。
有田皿山通りを見守る
陶山神社すえやまじんじゃ
古民家が軒を連ね、毎年陶器市で賑わう有田皿山通りのすぐそばに、商人たちを見守るように鎮座する〝焼物の神様〟。まず驚くのが、大きな石段を上ったところの境内に、唐突に現れる線路。JR佐世保線が通るのに踏切がなく危険ではあるが、どことなくノスタルジック。その先の階段を上ると有田焼で作られた灯篭や大鳥居が出迎えてくれ、本殿前から町が一望できるのも嬉しい。焼物の町として歴史を刻んできた有田の雰囲気を思いっきり感じてみて。
☎ 0955-42-3310 [所]佐賀県西松浦郡有田町大樽2-5-1
全10室のデザイナーズホテル
arita huisアリタハウス
限りなくシンプルで洗練された空間が気持ち良いホテル。レセプションには陶磁器アートの展示スペース、館内の随所にも有田焼の装飾が施してあり、上品で温かみある雰囲気が感じられる。館内からは、かつて有田焼の原料であった泉山の陶石を敷いた庭も。観光にもビジネスにもおすすめ。
☎ 0955-25-8018 [所]佐賀県西松浦郡有田町赤坂丙2351-169(アリタセラ内) [営]受付/9:00~17:00 [休]月・火曜 [P]有
有田焼で頂く地元名物
アリタポーセリンラボカフェ
「有田焼は食材を盛りつけ、実際に器として使ってこそ良さがわかる」との考えで、老舗窯元が手掛けているカフェ。ジューシーな「ありたどり」や有田名物の「ごどうふ」、棚田米などをふんだんに使ったランチセットが人気だ。
ここの料理やデザート、コーヒーはすべて[アリタポーセリンラボ]の器に見事に盛り付けられており、味覚だけでなく視覚からも存分に楽しめる。例えばランチが盛りつけられているのは重ねると円錐型になる「CONIC」という器。一見すると使いこなすのが難しそうに思えるが、お重としても、個々の器としても便利だ。実際に盛りつけて食事をすることで、その器がいかに食材を引き立てるか、使いやすいかどうかが参考になるので、器選びのヒントも得られそうだ。
☎ 0955-29-8079 [所]佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-11-3 [営]11:00~17:00 [休]火曜 [P]近くに無料Pあり
[ お土産で、有田の雰囲気をお持ち帰り! ]
有田焼プリン
東京で腕を磨いた店主が、16年前に有田で開業した当初から作っている評判のプリン。専用の有田焼カップはそのまま器としても使える。カラメルソースをかけて頂くと、きめ細かくしっとり滑らかプリンに思わず心が和むはず。
杏慕樹 ☎ 0955-41-1122 [所]佐賀県西松浦郡有田町丸尾丙1933-1 [営]10:00~19:30 [休]水曜 [P]有
13種の絵柄が
可愛い
白磁彩菓
クッキーの表面に有田焼の伝統柄をプリントした、可愛らしさがたまらない一品。絵柄は初期伊万里や柿右衛門、鍋島、金襴手、明治超絶技巧など、全3シリーズ15種類。添付のしおりにより、文様の背景にある歴史にもふれることができる。
天馬堂 ☎ 0955-43-2121(有田観光協会) [所]佐賀県西松浦郡有田町幸平1-1-1(有田観光協会)
※[佐賀県立九州陶磁文化館]、JR有田駅構内[有田銘品館]などでも販売中
有田焼
そのもの!
4月29日(土)~5月5日(金)
第119回 有田陶器市陶器市も
開催予定!
1896(明治29)年に始まった「有田陶器市」は、毎年多くの観光客で大賑わい。通常より割安な商品も多く、町全体が会場となるので祭り気分も味わえる。期間中は交通規制などもあるので、事前に陶器市HPでチェックを。早朝から訪れるなら、干支入り茶わんの朝がゆ(600円/毎日先着300杯)が頂けるかも⁉