MONTHLY FEATURES 今月の特集
大人の川遊び 原鶴の鵜飼
鵜匠の技術と鵜の営みによって川魚を獲る「鵜飼」。
7〜8世紀ごろの歴史書にも記述がある伝統的な漁がここ筑後川の[原鶴温泉]でも受け継がれ、人々を魅了してきた。
3年ぶりに行動制限がない今年の夏はコロナと豪雨を経て再開した「筑後川鵜飼」に出かけてはいかが。
1300年以上続く夏の夜の遊興
緩やかにカーブを描く筑後川のほとりに並ぶ、いくつもの温泉宿が昭和の情緒を感じさせる町並み。[原鶴温泉]はその昔、怪我をした鶴がここで湯浴みをして傷を癒したという伝説がその名の由来となっていて、江戸時代は「博多の奥座敷」ともいわれる湯治場として賑わった。風情ある静かな町並みと、古処山や耳納連山の豊かな自然に恵まれ、誰もがほっと一息つけるようなノスタルジックな原風景が広がる。
この地の夏の風物詩として知られる「鵜飼」は、5月~9月末まで行われる。午後8時を回り夜が更けた頃に、2人の鵜匠が鵜と共に笹舟に乗り込み、鵜の首を繋いだ手縄と船を巧みに操り川魚を獲る昔ながらの漁法だ。観光客は笹舟に並走する屋形船から幻想的で迫力ある漁の様子を見物できる。
鵜飼の歴史は古く、7~8世紀ごろに編纂された中国の歴史書や『日本書紀』、『古事記』などでも記述があるほど。岐阜の長良川や愛媛の肱川、京都の宇治川など日本各地の清流はもちろん、筑後川鵜飼も何世代にもわたり技術が受け継がれて現在に至っている。鮎の主要な漁法として発達したが、武士や貴族が見物に訪れるほど興行としても人気があって、江戸時代には鵜匠が乗る「鵜舟」の側に屋形船を浮かべ、客が間近で見物するスタイルが定着。歴史上の将軍や文化人が鵜飼見物を楽しんだという記録も多く残っている。
漁を間近で見られる鵜飼の魅力
鵜は、驚くほど目が良いのだそうだ。夜の川はかなり暗いが、笹舟の灯りが水中を泳ぐ魚のウロコに反射し、キラッと光を放つ。その光をめがけて鵜は川に潜り、大きなクチバシに魚を含むが、飲み込むためには水から上がる習性があるので、鵜は一旦笹舟に戻ってきて、魚を吐き出してまた潜る。これが鵜飼という漁だ。鵜が器用に魚を捕まえる様子を見た客からは、拍手や驚きの歓声が上がる。
この日30分ほど筑後川を航行して、獲れた魚は鮎のほか、ハヤやクチボソ、カマツカなどいろいろで、なんとナマズまで。漁を済ませて笹舟に番で止まっている鵜たちは、羽根を広げる「羽干し」をしながら、どこか誇らしい顔。客からは「よう頑張りんしゃったねえ」、「働いて偉いわ」という声も上がる。普段はなかなか目にしない鳥である鵜と人の距離がぐっと近くなったような、温かい空気感だ。
こんな風に人を楽しませてきた鵜飼だが、その鵜飼を取り巻く環境は様々な困難や課題を抱えている。鵜匠の思いや暮らしを少し覗かせてもらった。
川や自然の姿が変わっていく一方で
変わらない、鵜と匠の関係性
ここ数年間は試練に次ぐ試練
筑後川鵜飼では、鵜匠として3軒が活躍してきた。それぞれの家で笹舟を所有していて、常に鵜匠2名以上、鵜も8羽ほどを継承し、家同士でも交流をしながら歴史を刻んできたそうだ。鵜飼という漁がおこなわれるのは夏の4ヶ月ほどのみだが、鵜はそれぞれの家で飼育し、しつけも行うので、鵜匠は年中鵜と向き合っている。毎日の餌やりだけでなく、飛んで迷子になってしまわないよう羽根を透き、感染症にならないよう羽根の消毒をし、クチバシを綺麗に研ぎ、人や首に掛ける紐に慣れさせる。そうした技術や知恵の一つひとつが、親から子へと何世代にも渡って伝承されたものだ。
昔は筑後川でもたくさんの魚が獲れ、獲れた魚は旅館や料亭に卸していたそうだが、環境の変化とともに漁獲量は年々減っている現状がある。特に、2017(平成29)年7月の九州北部豪雨では川底に大量の土砂が流入して水深が浅くなったため舟が出しづらくなり、鵜飼は中断。翌年、翌々年も大雨で断念せざるを得なかった。川底の土砂が影響して魚は育ちにくくなり、現在進行中の復興のための河川敷工事も影響して、魚はかなり減っているという。先が見えない状況の中、鵜匠3軒のうち1軒は廃業を決めた。さらに、追い討ちをかけるようにやってきたのが2020(令和2)年のコロナ禍。貴重な収入源となる屋形船が出せず、漁に出るだけ赤字になる日々が続いた。
後継者不足という課題を抱えて
5年ぶりの本格始動となった今年の鵜飼は、梶原 日出夫さんと臼井 信郎さんが行っている。鵜匠3軒のうちの2軒の後継者である二人だ。舟一艘につき鵜匠と船頭が必要で、本来なら別の家系なのでそれぞれの笹舟に乗るところだが、担い手不足のため二人で協力する体制で一艘を運営している。
現在7羽いる鵜は日出夫さんの自宅で世話されていて、日出夫さん自身は自営で内装業を営む。笹舟に乗り始めたのは20歳の頃。祖父や父から鵜や漁に関するすべてを教わって、もう48年になるそうだ。自宅のすぐ前に筑後川が流れていて、そこから笹舟を出していたのに、今シーズンは豪雨被害からの復旧工事の真っ最中。鵜を川で泳がせるために、毎度鵜の胴に紐をつけて軽トラに乗せ、近くの河川敷まで連れ出している。「ずっと檻にいる子たちだから泳がせてやらんとね。野生にいる鳥を手懐けるのが苦労するんですよ。人と同じで、性格もいろいろ。ペットではないけど、情が湧くよね」。
一方の信郎さんは現在38歳。15〜16歳の頃から船に乗ってきて、幼少期から日出夫さんとも付き合いがあったそうだ。20歳で鵜匠として客の前に出始めたものの、若い時は家業を継ぐ気になれず一旦は辞めた。親族の中で鵜飼をしてきた父や叔父が高齢になったため、鵜飼に戻されたという。今は、会社勤めをしながら夏は漁に出る生活を送っている。「継ぐ気がなかったんですよね(笑)。他に後継者がいないから戻されたんですが、やっぱり伝統ですから途絶えさせてはいけない、守らないとという気持ちが芽生えて。鵜は小学校の低学年の頃までうちにもいた、身近な鳥。子どもの頃は怖かったですけど、番で仲良く並ぶ姿はいいもんですよね」。
先人たちから受け継いだバトンを
一日でも長く繋げていく
他では見られない鵜飼一度足を運んで
日没の時間がくると、穏やかな筑後川に浮かぶ笹舟と屋形船の姿がある。これが[原鶴温泉]の夏恒例の景色だ。
鵜飼が始まって間もない5月下旬、この日は信郎さんが紐を握って鵜を操り、日出夫さんは川の様子を探りながら船頭として笹舟を進める。雨が降ると川底の様子が変わってしまい、舟が止まる恐れもあるからだ。7羽いる鵜のうち、調子の悪い1羽を除いて、6羽が懸命に潜っては魚を捉える。獲れた魚をみせてもらうと、見物客は拍手を送ったが、「この量はかなり少ないし、サイズも小さいですね。もう少し暑い時季なら、鮎はもっと大きいでしょうね」と信郎さん。数年の苦労を経て鵜飼が再開したというのに、漁獲量が思うようにならないのにはもどかしさを感じた。
笹舟のヘリに止まっている鵜が羽根を広げて羽干しをしていると、日出夫さんは「私は鵜のこの姿が一番好きだな。格好いいでしょう」。確かに、黒くツヤのある羽根は思ったより大きく、キレイ。鵜と人は1300年も繋がりがあったのに、こんなにキレイで愛嬌のある鳥だと知っている人はとても少ない。「でもね、私にも後継者がおらん。これはどうしようもできんのですよ。私もあと何年できるかどうか。鵜匠は2人は必要なのに…」。
鵜匠の後継者不足、相次ぐ豪雨、それによる筑後川の環境の悪化…そんな頭の痛い課題が山積している状況ではあるが、二人は9月末までの期間、天気の悪い日や川の状態が悪い日を除き、ほぼ毎日漁に出る。屋形船で鵜飼を見る人がいれば、歓声や拍手が起こる。温泉旅館に宿泊する人にとっては、今も変わらず〝原鶴温泉の名物〟だ。けれど、二人の思いや苦労だけではなんともならないこともある。受け継いできた伝統を次の世代へ繋げていくには、後進の育成や筑後川の整備はもちろんのこと、私たちが鵜飼を知り、見物に出かけることも一助になるのではないか。
筑後川鵜飼について
〈 問い合わせ先 〉
川の駅はらづる
☎ 0946-62-2828 [所]朝倉市杷木久喜宮1833-10
[営]9:00~18:00 [休]月曜
※天候や川の状態で運行に変更があるため事前に要問合せ
鵜飼鑑賞屋形船(要予約)
[期間]5/20(土)~9/30(土)
[時刻]20:15受付、20:30出航
[料金]大人(中学生以上) 3,000円、小学生 1,800円、未就学児(3歳以上) 1,000円、2歳以下 無料
※必ず保護者同伴で乗船のこと
HARAZURUONSEN PICK UP SPOT
原鶴温泉に
行ったら
ココにも寄っとこ!
行ったら
思いっきり遊んで爽快!
ウォーターアクティビティー
[原鶴温泉]の辺りは筑後川の流れがとても穏やかなポイントなので、川遊びにもってこい。ゆったりと水上でのサイクリングが楽しめる「ウォーターサイクリング」、水面に近い視点で筑後川を思いっきり満喫できる「カヤック」、ボードの上に立ってパドルで漕ぐ「SUP」など、自然と一体となって遊べるプログラムが用意されている。経験豊富なインストラクターが優しく教えてくれるので、大人はもちろん子どももOK。遊んだ後の温泉がセットになったプランも。普段はなかなかできない川遊びを体験して、筑後川にもっと親しんでみよう!
川の駅はらづる
☎ 0946-62-2828
[所]朝倉市杷木久喜宮1833-10
[営]9:00~18:00 [休]月曜
訪れる人が後を絶たない香山昇龍観音
[原鶴温泉]を一望できる「香山」山頂に佇んでいて、知る人ぞ知る開運・金運スポット。全高28mで昇龍観音としては日本一の大きさを誇る。100円でローソクと線香を上げてお参りしよう。金香水という銘水や四季折々の花に囲まれたパワースポットとして、多くの観光客が訪れる。
香山昇龍観音
☎ 0946-63-3031
[所]朝倉市杷木志波871-4
[営]8:30~17:00(受付16:30)
[休]無 [P]有
新鮮な果実や地元のお茶をジェラートで
彩り豊かなジェラートはすべて手作り。自社農園の果物や新鮮な牛乳でつくるから、何種類も食べたくなる美味しさ。季節によって旬の食材を使っていて、夏はすももや桃、野菜やオリーブといった珍しいジェラートがあることも。果樹園に囲まれたテラス席もあって、ひと息つくのにぴったり。
ソルベッチdoうきは
☎ 0943-77-2502
[所]うきは市浮羽町山北1485 [営]11:00~17:00
[休]火曜※12~2月は水曜も休み [P]有
養豚場を営むオーナーの
特製ホットドッグが自慢
地元のブランド豚「耳納あかぶた」や「耳納いっーとん」を使って、こだわりのソーセージやベーコンを自社加工。ジューシーでワイルドなホットドッグはスパイスと薫香が効いて大満足の味。ソーセージ等の加工品はもちろん、焼肉用の豚肉も購入できるので、お土産を買いに立ち寄るのもおすすめ。
RIVERWILD HAM FACTORY
☎ 0943-75-5150
[所]うきは市吉井町橘田568
[営]11:00~17:00(OS16:30)
[休]月~水曜、木曜or金曜※インスタで要確認 [P]有