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久留米市中央卸売市場の一日

久留米市中央卸売市場の一日

諏訪野町に開場してから60年あまりの間、久留米の青果と水産物の流通を支えてくれている[久留米市中央卸売市場]。
暮らしに身近な存在で、誰もがお世話になっているはずなのに一歩も入ったことがない、という人も多いかもしれない。
そのリアルな姿を捉えるべく、ほぼ毎日行われる競りの様子をみせてもらった。

筑後の「美味しい!」を一手に担う

私たちが日中に[久留米市中央卸売市場]の辺りを通りかかっても、活発な動きがある様子はうかがえない。その広さ、福岡ペイペイドームのグラウンド3個分(42462㎡)。塀で囲まれた市場の中は、物流に携わった経験がない人にとっては、謎めいた空間にすら思えるが、私たちが新鮮な魚介や旬の野菜・果物を手にすることができるのは、この市場での活動があってこそだ。
卸売市場は、経済復興において大きな役割を果たしてきた。戦後、いわゆる「やみ市」という自由な小売業が盛んになり、久留米でも小売店が集まる商店街がいくつも誕生した。より安定して商売ができるようにと、青果と水産物の卸売市場が当時の東町(現・篠原町)に民営市場として運営を始めたのが昭和23(1948)年。当初は戦後の混乱期にあって集荷には難儀したが、次第に取扱量が増大していったようだ。
昭和30年代に入ると、市場周辺が顕著に発展したため、交通の発達や経済圏拡大をふまえ、久留米市は諏訪野町(現在地)に用地を確保し、昭和36(1961)年に中央卸売市場を開設。昭和37(1962)年に水産物部が、昭和38(1963)年に青果部が営業を開始した。それから60年以上、毎日120トン以上の青果・水産物を取扱い、筑後一帯の食卓を支え続けてくれている。

久留米市市場(明治通りにあったやみ市の1つ)
※カメラがとらえた久留米の100年 写真集『私の街 私の時代』(1989) カメラがとらえた久留米の100年実行委員会 より転載

市場の一日の動き、
食材に向き合うプロたちの

朝焼けの中、各地からやってくる鮮魚

市場の朝は早い。職員たちは明け方午前2時ごろから出勤し、当日の競りの準備を始める。空の色が明るくなってきた5時ごろから、新鮮な魚介類を載せたトラックが続々と到着。九州だけでなく日本全国で水揚げされた、アジやイワシ、サバといった家庭で馴染みある魚から、クエや伊勢海老といった高級魚まで。
買付に訪れているのは鮮魚店やスーパーの担当者、さらには飲食店の料理人たちだ。皆、店舗の番号が振ってある帽子を被っていて、荷下ろしされた魚介類を品定めしていた。体の大きさや目を見たり、腹の部分を触って固さを確かめたり。健康状態や鮮度、脂の乗り具合を見極めて、今日の競りの狙いを定めるのだ。

いよいよ!水産物の競りがスタート

積み上げられたトロ箱の近くに買出人たちが集まり、競り人と呼ばれる職員がメガホン越しに声を上げると、ゆったりとした朝の雰囲気が一転、活気と勢いのあるピリッとした空気に包まれた。競り人は水揚げした漁師の名前や魚種などを説明しているが、専門用語が多用されている上、あまりに早口なので競りに慣れている人にしか聞き取れない。が、漁師と買出人の間に立って適正な価格で値付けをしたい競り人と、店や客のためにより良い品を入手したい買出人という、立場の違う目利きたちの攻防はまさに真剣そのもの。「2千500円」、「いや2千円」、「それじゃ安い」。押したり引いたりのやりとりを交わし、ものの数分で1つひとつに値を付ける。スピード感とライブ感にあふれる独特の雰囲気だ。

水産棟では出荷へ鮮度を保つ工夫も

競りが行われている卸売場のすぐ隣には活魚槽があり、タイやハマチ、カンパチなどが泳いでいる。水槽の温度は16度前後。出荷直前に水揚げしたら、すぐその場で血抜きと神経抜きを手早く行うのも魚市場の職員だ。
競り開始から1時間も経てば卸売場にあった水産物はすべて買い手が決まり、それぞれの行先へと出荷され始める。季節によって魚種はもちろん、取扱量も変化するというが、例えばあまりに漁獲量が減ることがあれば別の卸売市場からの水産物を調達するということも行っている。海のない久留米で水産物が安定して流通し、私たちが美味しく頂けるのは、この市場で働く人たちのおかげなのだ。

品目の多い青果棟の競りも開始

水産棟の隣にある青果棟に視点を移すと、野菜や果物の競りが始まろうとしている。青果棟は、水産棟に比べ品目が多くて卸売場も広大なため、果物、葉物野菜、根菜類などに分け数ヶ所で競りを行う。
水産棟とは違った雰囲気で、競り人はメガホンを使わずに声を張り上げ、生産者の名前や等級、サイズ、数量を説明する。参加しているのは市場内に店舗をもつ仲卸業者、そして市場外に店舗をもつ青果店、スーパーや加工業者だ。やはり部外者にとっては競りの内容は聞き取れないが、買出人は札に価格を書いて提示し、最も高い価格をつけた買出人が落札する。

競り人と参加者たちが、農作物の鮮度や品質について意見を交わす場面があった。今シーズン初の梨や、旬を過ぎたスイカについては「食べてみらんとわからん」ということで、その場でカットして試食もした。どの店で、どの用途で使うのがいいかを見極めるためだ。また、「これは運搬の途中で落下したげな。でも悪うなっとらん」とか「形が悪いのでも大丈夫」などという会話も聞こえてきた。
栄養価の高い旬の品が安定して流通することが理想的だが、農作物というものは災害や天候の変化、疫病など自然の状態から影響を受けるのは避けられない。今年の大雨被害も記憶に新しい。その状況下でも市場に出荷された農作物をいかに無駄にせずに、ありがたく使い切るか。そのために協力して知恵を絞っているように見えた。これが生産者と消費者の間をつなぐ、市場の役割なのだろう。

野菜や果物は、11時までには青果店・スーパーマーケットへと出荷される。その後も職員は翌日の競り準備などの業務が続き、深夜からほぼ昼夜逆転の毎日だ。悪天候の日や凍える日もある。しかし、新鮮な食材を家庭に届けるために、このサイクルがずっと続いていく。食材を運搬するトラックは24時間発着するので、そういう意味では市場が完全に休むことはない。久留米の「美味しい!」がいかに多くの人に支えられているかを知ったうえで、改めて食事を美味しく頂きたいものだ。

久留米市中央卸売市場
行ってみよう!

市場はいわば“お店のお店”。 平常時には一般客は買い物をすることはできないが、 イベント開催時や一部施設は利用が可能。
機会があればぜひ市場を探検してみよう。

牟田食堂

市場で扱った食材を使った家庭的な料理が頂ける[牟田食堂]は、市場で働く人たちの台所であるのはもちろん、一般の人でも利用OK。市場が篠原町にあった時代から、“市場の食堂”として親しまれている。特に日替わりで登場する鮮度抜群の刺身が1皿400円、ご飯がすすむ小鉢料理は1皿230円〜で、いくつも選ぶのが楽しくなってしまう。市場と同様、早朝から昼までの営業なので、朝食のために訪れる人も多い。

☎ 0942-32-0887 [営]5:30~13:00 [休]水・日曜、祝日 [P]有(白線の駐車枠)

いちば de マルシェ

青果棟にたくさんの旬の野菜・果物が出品され、いろいろなキッチンカーやワークショップなども集結する「いちばdeマルシェ」。毎月第3土曜の12:00~15:00に開催され、その間は普段は入れない市場内の仲卸売場での買い物もできるため、一般の人たちもお目当ての新鮮野菜のために行列するほど。会場には屋根があるので、雨天でも決行。9月は16日に開催予定!

夏休み子ども市場探検隊

久留米市内の小学生と保護者が、早朝の市場に集合して、市場の内部を探検できるイベント。活魚槽の様子や実際の競りを間近で見たり、-50℃の大型冷凍庫の冷たさを体験するのが大好評!

魚食普及事業

市民や学生が対象の、魚の魅力を再認識してもらう取り組み。鮮魚店店主や料理人が講師として学校などに出向き、魚をおろす実演をしたり、学校のカリキュラムにないフグの扱い方などを伝授したりする。

模擬競り

年に一度の市場まつりでは模擬競りといって、一般客が参加できるデモンストレーションが水産部・青果部ともに行われる。まさに買出人になったかのような雰囲気を実際に体験してみよう。

年に一度の
「市場まつり」

バナナの叩き売りや模擬競りなどの楽しいイベント、魚のプロ特製の海鮮丼や鉄板焼き、目利き厳選の地元野菜・果物が勢ぞろいする年に一度のお祭り。イベントの内容は久留米市のホームページで確認を。