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立花家第18代 立花 千月香 百年後も残り続ける場所に。

百年後も残り続ける場所に。

柳川藩主立花邸 御花 代表取締役社長
立花 千月香 Chizuka Tachibana
1971年柳川市生まれ。第17代・立花 寛茂氏の次女。東京での商社勤め、ボストン留学を経て、[柳川藩主立花邸 御花]に入社。2015年、代表取締役社長に就任した。

藩主家末裔が営む宿
新時代を迎え撃つ

白い洋館が訪れる観光客の目を引く[柳川藩主立花邸 御花]。柳河藩5代藩主・立花 貞俶が、当時〝御花畠〟と呼ばれていた城の南西部に建てた家族のための別邸である。明治維新後、多くの旧藩主家が東京に移り住む中、伯爵家となった立花家がここに住み続けたのは、彼らがこの地を愛し、人々からも〝殿さん〟と親しまれたからだろう。
第二次世界大戦後、華族制度が廃止されると、立花家の娘・文子氏は、入婿として第16代当主となった和雄氏と共に奮闘。自ら収入を得て家を存続させるために始めたのが料亭旅館[御花]だ。いわゆる〝お姫さま〟として生まれ育った文子氏の艱難辛苦は想像にあまりあるが、旧伯爵邸を利用した経営は見事に開花。今や7千坪の敷地が「立花氏庭園」として国の名勝に指定され、観光地・柳川のシンボルとなっている。
そして現在、立花家第18代として[御花]を切り盛りするのが、文子氏の孫娘にあたる立花 千月香氏だ。
「初めは東京の商社に勤めていましたが、仕事の楽しさがわかったとき、この会社は私がいなくても潰れることはないなと。ならばこのエネルギーを実家に注ぎたいと思ったんです」
文子氏譲りと思われる明るくバイタリティーに満ちた立花 千月香氏。そんな彼女の代には新たな時代の新たな試練が待ち受けていた――。

気付かせてくれたコロナ

立花家の歴史の重みを感じながら、踏ん張った日々。負けたくなかった

文化財の維持には大変なご苦労があったのではないでしょうか。

立花現存する建物や庭園は明治時代に造られ、築百年以上経過していますので、ここを百年後も残し続けるのが私の使命だと思いました。2013年に東京オリンピックの開催が決まったことをきっかけに、キレイな状態で外国人観光客を迎えたいと修復工事に踏み切って、2019年まで足かけ5年かかりましたね。

時代の転換期に家を継がれたんですね。その後、今度はコロナ禍に。

立花それまで日帰り利用や団体のお客様がほとんどだったので、ほんとにこの2年間は大変でした。今までの常識がまったく通じなくなり、どういう世界が戻ってくるのか、まったく想像ができませんでした。そのとき全部見直そうと思ったんですよね。ほんとにやりたいことって何だろうって。それまで何が残念かって言ったら、県内でも名刺を差し出すと「お花屋さんですか?」って言われるんです。たくさん来ていても記憶に残らなくて、そもそも[御花]が目的地になってない。

コロナが立ち止まって考えるきっかけになったんですね。

立花スタッフはこの1年くらい[御花]のことをほんとに勉強してくれましたし、どういうお客様に来てもらいたいのか、その方たちがもう一度来たいと思うにはどうしたらいいのか、一生懸命考えてくれて。そもそも「藩主別邸なのに温泉がなかった」とか言われてたんですね。温泉宿なんて一言も言ってないのに。こういうお宿を探してるという方と全然マッチングしてなかったんですよね。そこで発信する素材から全部見直しました。そしたら、年齢に関係なく文化財が好きな方とか、同じ価値観を持つ方にヒットすれば、すごく響くんですよ。「御花ってこういう所なんです、この価値をわかってくれる方、ぜひ来てください」って言ったら、ぶれずにお客様が来てくれるようになりました。まだまだこれからなんですけど、自分たちの方向性を一つずつ検証しながらやってますね。だから今、楽しい! スタッフも面白いんですよ。笑えるくらい〝御花愛〟がすごくて(笑)。

立花さんはやっぱり、文子さんのエネルギーを受け継がれてるかと。

立花そうですね、祖母はいろんなことを乗り越えてきているんですよね。祖母が近所に住んでいたとき、「こういうことがあってね、あんなことがあってね」と話すと、「もう千月香ちゃんの言うことなんてたいしたことないわよ、そんなこと気にしないの」って毎回言われたんですよ。それで「ああ、そっかー」って。コロナで大変になったときも、祖母に比べたらたいしたことないなと、ここは乗り越えたいと思いましたね。

生き残るカギは〝文化観光〟

これから先、[御花]はどうなっていくのでしょうか?

立花私たちは百年後も[御花]がここに残っていることをお客様と約束してると思うんですよね。例えば、ご両親が[御花]で結婚式を挙げたから、自分たちもっていう方が結構いらっしゃるんです。次の世代にもそう思ってもらいたい。だから、なくならないことが大事。じゃあなくならないためにはというところで、一つは〝文化観光〟です。〝文化観光〟とは、昔からの文化が残っているところで、建物だけじゃなく、人も語り部になって柳川の良いところを伝えていくことです。お堀もそう。ただの川下りコースじゃなくて、柳川に水害がないのは雨を流してくれるお堀のおかげなんですよ。今あるものを変えるんじゃなくて、見方を変えたり、伝え方を変えるだけで新しい観光のあり方って伝えられるなと。

すごく良いと思います。各地域に実は面白い文化がありますよね。

立花私はこれから点じゃなくて面の時代になると思うので、柳川だけじゃなくこの筑後の豊かさを〝文化観光〟として伝えていきたいと思います。でもね、最終的には地元の人に「柳川って良いとこだなぁ」って思ってもらえるのがゴール。[御花]が柳川にあって良かったって思ってもらえるように頑張りたいですね。

私の必需品
祖母から贈られた餞別
いつも立花氏の財布の中にある、すり切れてボロボロになった小さな封筒。「愛する千月香へ」「文子」とサインがある。それはボストンに留学するとき、「なんとかなるわよ」が口癖だった祖母・文子氏から贈られたもの。20年以上を経た今も紙幣は当時のまま、彼女のお守りになっている。

柳川藩主立花邸 御花

柳川藩主立花邸 御花
柳川藩主立花邸 御花
電話番号 0944-73-2189
住所 柳川市新外町1
営業時間 料亭・レストラン/11:30~15:00(OS14:00)
定休日 料亭・レストラン/無 ※季節により変更あり
駐車場 有※要予約